vol.4 ストリートカルチャーについて 1/2
2024.03.03

文化とは状態を表している為、細部まで定義することは難しい。コミュニティの中で形成されていくから、〇〇文化といっても人によって合意する範囲は多少違う。例えば、日本文化といっても地域によって風習が違う。また、そのグラデーションの中核を成す色が濃いほど合意形成もし易い。その濃さは歴史とそれにまつわる象徴的な代名詞によって決まる。別の言い方をすればストーリー(物語)とアイテムともいえる。世間一般で語られるストリートカルチャーについての解説や考察はネット上に情報が充実していると思うが、それ以上のものを僕は持ち合わせていない。よって、ある程度みなさんに共感して頂けそうな出来事を先に列挙したうえで、断片的ではあるがストリートカルチャーという側面で自分が体験したことの一部を記載したい。
まず、アメリカが起源となる。1970年代に西海岸のカリフォルニアで現在の形のスケボーが流行した。主にサーファーの陸上練習用や移動手段といった用途に留まっていたが、徐々に技を競うアクションスポーツとしての側面が強くなり大量生産によって規模を拡大した。同じころ東海岸のニューヨークでHIPHOPが爆誕する。決して裕福ではない若者を中心に、自己表現の方法として様々なカテゴリーが確立された。ローカルエリアはアーティスティックに落書きされ、DJの音楽に乗せてラップで問題提起を叫びオーバーサイズのウェアでダンスを踊った。そして時代が進むにつれて象徴的なスターが生まれ、そこにブランド(=企業)が絡むことによってより商業的な要素が加わり一般に広がりを見せた。この二つの局所的なトレンドに、そこにルーツの無い人々でも気軽に触れることができるよう周辺のカテゴリーが進化していった。例えば、ストリートブランドの元祖ともいえるStussyの創業者は地元カリフォルニアのサーフボードシェイパーであったが、アパレルを通して世界中にそのロゴが認知された。そんなTシャツが僕の地元のセレクトショップに並ぶまで普及したのだ。
ストリートカルチャーで連想される事物といえば何だろうか。以下のものが思い浮かぶ。
音楽:HIPHOP、ラップ、レコード、DJ、ロック、パンク、レゲエ、クラブ
ファッション:スニーカー、キャップ、ファッション誌、ストリートブランド、セレクトショップ
スポーツ:サーフィン、スケボー、スノボー、BMX、ブレイクダンス、バスケ
アート:グラフィティアート、フィギュア
僕は、このようなもの全てを包括した文化をストリートカルチャーと呼ぶようにしている。今でこそオリンピックでは、ブレイキンの会場でDJが曲を流したりスケボーやBMXなどを技の完成度で採点したりしているが、スケボーもHIPHOPも最初から市民権は無かったはずだ。どこか排他的で、あくまでも若者がアンダーグラウンドを生きる一つの手段であったことが始まりだと思う。日本はそのような”型”を取り入れた。日本でストリートカルチャーが最も盛り上がり、そして脚光を浴びた時期といえば1990年代初頭~2000年代初頭の期間と言える。この約10年ちょっとの間に起きた現象や誕生した物に、日本のストリートカルチャーが凝縮されている。以下、当時の注目すべき出来事に触れる。
【1990年~2000年:裏原系ファッションの流行】
ストリートファッションといえば裏原宿と言われる程、原宿周辺を震源地として全国に広がった一大ムーブメント。魅力的なブランドが数多く誕生し、情報量が限られる時代にデザイン性が高くロット数の少ないアイテムが販売され、レア物という概念が人々を虜にした。藤原ヒロシ氏、高橋盾氏、NIGO氏の3名が伝説的存在。
【1993年~1996年:アニメ『SLAM DUNK』放映】
言わずと知れたバスケ漫画の金字塔。不良だった主人公が、仲間と共にトップアスリートへと成長する過程を描く。作者の画力が凄まじく、NIKEのAIR JORDANをはじめ作中に登場するバッシュを見れるのも楽しみの一つ。ストリートカルチャーを感じ取ることができた。
【1995年~1998年:NBA シカゴ・ブルズ黄金時代】
バスケの神様、マイケル・ジョーダンのキャリアで最も有名な三年間。ロッドマン及びピッペンと共にBIG3と呼ばれ、チームを二度目の三連覇へと導いた。SLAM DUNKに登場する湘北高校のチームカラーのモデルでもある。
【1995年~1998年:ハイテクスニーカーブーム】
NIKEのスニーカーAir MAXシリーズ全盛期。中でもAir MAX95は爆発的な人気を誇り、”エアマックス狩り”という社会現象があったとのこと。田舎では見たことがない。
【1995年~1996年:ストリートファッション誌の創刊】
影響を受けたストリートファッション誌といえばこの3冊。『smart』『Ollie』『warp』が立て続けに創刊された。
【1999年~2002年:HIPHOPやミクスチャーロックの有名曲量産期】
Dragon Ashが3rdアルバム『Viva La Revolution』をリリース。Steady&Co.が1stアルバム『CHAMBERS』をリリース。RIP SLYMEが2ndアルバム『TOKYO CLASSIC』をリリース。キングギドラが2ndアルバム『最終兵器』をリリース。ケツメイシが2ndアルバム『ケツノポリス2』をリリース。KICK THE CAN CREWが紅白歌合戦初出場。
【1990年~2000年:代表的なストリートブランドが次々とスタート】
GOODENOUGH / UNDER COVER / XLARGE / A BATHING APE / HECTIC / Supreme / NEIGHBORHOOD / BOUNTY HUNTER / DEVILOCK / DOARAT / MACKDADDY / RECON / SWAGGER / visvim
【2000年4月~2000年6月:ドラマ『I.W.G.P』放映】
有名脚本家の宮藤官九郎氏が手掛けたTBSドラマ。今では信じられないようなキャスト陣が名を連ね、キングを演じる窪塚洋介氏のカリスマ性が話題となった。内容の過激さゆえに親からあまり観るなと言われていた。
ストリートカルチャーを自分なりに定義してみると、共通している概念として既存のメインストリームに対してのカウンターカルチャーというのが根幹にある。ただ単に反発して終わりではなく、そのエネルギーを何かのアイコンへと昇華させた。そして、音楽・ファッション・スポーツ・アートといった全く違うカテゴリー同士を求心力のあるデザインで貫いた。元来、貧困や差別といったネガティブな環境をルーツに持つにも関わらず、個々のアイデンティティを尊重し合い自己表現の豊かさを武器にキャラを確立させた。ゼロからではなく、マイナスから価値を創出したという歴史は凄い。単体でも存在感を発揮できる為、それがブランドであれ人であれコラボすることによる相乗効果も絶大な価値を生むまでになった。このような特徴から、自然と人々の憧れの的になることは想像に難くなく、それがさらに希少性を産む好サイクルに拍車をかけた。次の記事に続く。
2024.03.03

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